『殺人の追憶』は、1980年代後半、韓国全土を恐怖に陥れた華城連続殺人事件を実際の背景としています。当時、犯人は長年にわたって捕まらず、その事実は映画の中でもそのまま貫かれています。映画が終わる瞬間まで、私たちは犯人の正体を知ることができません。
この映画は表向きには殺人犯を追う刑事たちの物語ですが、その過程を追っていくうちに、いつしか1980年代の韓国社会が抱えていた粗さや不完全さそのものと向き合うことになります。頼りない捜査手法、暴力的な取り調べ、田舎町に漂う不安な空気——犯人を捜す物語であると同時に、その時代を生きた人々の物語でもあるのです。こうした時代背景を知った上で見返すと、ポン・ジュノ監督が随所に仕込んだディテールが、より鮮明に浮かび上がってきます。
公開から時間が経った作品ですが、その完成度は今見ても文句のつけどころがありません。個人的には、これまで見てきた韓国映画の中でも最高の作品の一つだと思っています。見返すたびに、最初は気づかなかった場面やセリフが新たな意味を持って見えてきて、監督が本当に伝えたかったことが少しずつ見えてくるからです。
映画が製作された当時、実際の犯人の正体はまだ明らかになっていませんでした。だからこそ監督は、「もしかしたら本物の犯人がこの映画を見ているかもしれない」という思いでラストを演出したと言われています。その結果、映画の最後、主人公が正面のカメラ——つまりスクリーンの向こう側にいる観客をまっすぐ見つめるようなシーンで幕を閉じます。単なる演出を超えて、監督の意図と細やかな配慮が最も強く感じられる瞬間だと思います。だからこそ、この映画は必ず一度は見るべき作品だと、自信を持って言いたいです。
映画の外の話を少し付け加えると、実際の華城連続殺人事件の真犯人は2019年になってようやく明らかになりました。犯人はすでに別の事件で服役中で、DNAの再鑑定によって遅ればせながら真犯人であることが確認されました。映画が描いた「終わらない時間」は、実際には30年以上も続いていたことになります。
作品ページ(作品紹介・出演者情報)を見る →